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レンズディストーション
レンズの歪みを考慮する
撮影した素材には、必ずレンズ収差(lens aberration)による歪み「レンズディストーション」(Lens Distortion)が発生しています。マッチムーブを完璧に行うには、このレンズディストーションをキチンと把握しておく必要があります。
レンズ収差には、こま収差、球面収差、非点収差など様々なタイプの収差がありますが、ここでは歪曲収差と呼ばれるレンズ歪みについて説明します。他の収差についてはSILKYPIXのサイトやキーエンスのサイトが非常に参考になりますのでそちらをご覧下さい。
上のムービーを見てください。これはCanonのHDレンズHJ22e×7.6B IRSEで撮影したものです。スタジオの壁面にマスキングテープを張り、どの程度歪みが出ているか調べたものです。Zoom端とWide端では、歪みが異なっているのが分かるでしょう。Zoom端ではハッキリと歪みを認識できませんが、レンズを引いていく途中で糸巻き型歪みになり、Wide端に行くほど樽型歪みに変化していきます。(実際には、Zoom端でも糸巻き型歪みは発生しています。画面いっぱいにメッシュが収まっているのでよくわからないだけです。)
一般的にCGアプリケーションは、歪のない3次元空間で画像を生成していきます。例えば、10階建てのビルを撮影して、その屋上に更に階数を追加して20階にするようなCGを作成しようとしたとき、レンズの歪みゆえに追加の階数はうまくマッチングしないという不具合が発生します。
これを解消するためには、まずレンズの歪みを考慮したトラッキングを行い、レンズ歪みを反映した合成用バックグランドをエクスポートしてCGの合成作業をする必要があります。
撮影時の注意点
レンズの歪みを考慮するのはBoujouでトラッキングするときの話ですが、撮影時においても注意事項があります。
まずレンズは出来るだけキレのいいものを使用しましょう。Boujouが必要な仕事であれば、まさか民生機のカメラを使うことはないと思いますが、最低限でも放送用レンズを使うようにしてください。
ここで言うレンズのキレとは、前述したレンズ歪みに加え、色収差も含まれます。色収差とは、撮影した対象物のエッジに現れる色のにじみのことです。これは、レンズを通して集めた光がすべての色で同じ場所に結像しないことに起因します。赤、青、緑ごとに少しずれて結像しているところからこの色収差が発生します。
Boujouは、画像に含まれるコントラストの大きなところをPrediction(目標点)にして座標を検出しています。ですからBoujouがトラッキングする上で、色収差や歪が大きなレンズはマイナス要素です。よって、Boujouができるだけ間違いを犯さないよう事前に準備しておくことが大切です。
- レンズは放送用以上を使う。
- 上記1)から、2/3インチCCDのカメラを使う。
- 出来るならZoomなしの映画用レンズを使う。
- Zoom付きレンズなら絶対にZoomは使わない。
- Zoom付きレンズならWide端を使い、Zoomの途中は使わない方が良い。
- 撮影対象物の照明は出来るだけ均一にして特徴点が明確になるようにする。
- 必ずドリーかクレーンショットを使う。(Boujou5からPanでもトラッキングできるようになりました)
- 上記ショットであってもわずかな動きはトラッキングしにくい。
- ブレのない画像を撮影するように留意すること。
- パンフォーカスで撮影すること。
- 焦点距離を測定しておくこと。
- Boujou用のレジチャートでレンズディストーションを測定すること
上記注意点の解説をすると
1.2.は、Boujouがトラッキングしやすいようキレのいい画像をインポートするために必要なことです。それとRED ONEで撮影したものも難しい部類に入ります。これはCMOSの特性からくるもので動きの激しいものは形が歪むからです。車が走行するシーンを撮影する場合、画面の上部と下部では、車の形が変わっています。歪みが一定ならトラッキングできますが、時間経過によって異なる歪みが発生するためトラッキングは至難の業です。
3.4.については、Zoomによって焦点距離が変わるとFOVも変わり、視差から正確な目標点を見つけることが出来なくなるためです。 一応、ZoomでもBoujouは追いかけることが出来ますが、DollyやCraneショットのように、焦点距離が一定で視差が発生するカットに比べて正確なPredictionを生成できません。よってZoomなしのムービー用の単玉レンズの方がベストということになります。
5.については、レンズ歪みを一定にするためです。Wide端、Zoom端のどちらを使ってもいいですが、Zoom端を使うとDollyやCraneでブレが発生しやすいので、Wide端を使うようにします。
しかし、Wide端を使うと歪みが大きくなると思われる方も多いと思いますが、ここは作業効率を考えてWide端を使うようにします。なぜなら、レンズの歪み具合があらかじめわかっていれば、Boujouを使う仕事で毎回キャリブレーションを行う必要がないからです。何カットもトラッキングしなくてはならない場合、毎回歪みを検証するのは大変面倒です。Boujouにはレンズディストーションをコマンド一発で生成する機能もありますが、完璧を期すためマニュアルで歪みを検証する必要があります。
6.についてはトラッキング対象となる画像の特定部分の明暗の差を特徴点として判別するからです。ですから、あまりにもコントラストの弱い部分は特徴点として成立しないからです。その逆にコントラストが高いと影の境界部分も特徴点して認識するので本当に特徴点として欲しい場所にしっかり照明があたるようにライティングしてください。
7.については、Boujou5からほぼすべてのカメラワークに対応できるようになりましたが、ZoomとPanはトラッキングには不適切なカメラワークだと認識してください。
特にPanはReference Frameという別アングルから撮影したカットが必要です。あらかじめ別アングルを撮ることをショットリストに加えておく必要があります。Panのショットをポストプロの段階でいくらトラックキングしてくれと言われても、Reference Frameがなくてはどうすることも出来ません。マッチムーブの必要がある場合、コンテ作成の段階でテクニカルディレクターとカメラワークについても打合せしておけば問題になることはないでしょう。
しかし、AEのトラッカーに比べはるかに正確ですから、単に追いかけたいという目的だけならかなり優秀なツールです。
(その割にはかなり高額ですが・・・。)
8.は、Boujouの仕組み上、視差が必要なことから、視差が少ないと正確に目標点を決めることが出来ません。つまり動いているのか動いていないのかハッキリ分からない素材はトラッキングに向かないことになります。しかし、これもカメラワークで解決できる場合もあります。例えば、移動距離が少ないDollyの場合でも、カメラを固定にせず、少し被写体に対してフォローするようにしてやれば、視差が拡大し特徴点(Prediction)を生成することが出来ます。
9.正確な目標点をBoujouは認識するためにトラッキングの対象はブラーのないことが重要です。ブラーの激しい素材は、どこを目標点にするのかBoujouが判断できず、特徴点(Prediction)を生成できません。
10.パンフォーカスとは、被写界深度が深く手前から奥までしっかりピントがあっている状態を意味します。
例えば、車のナンバープレートを差し替えるといった仕事の場合、車のプレートと周辺のヘッドランプ、バンパーの継ぎ目、フォグランプなどにピントは合っていれば大体トラッキングできますが、車を置いてある背景をすべて差替えたいといったオーダーでは、地面や背景の建物にもピントが合っている必要があります。よって5.でも説明したようにレンズのWide端を使うというのは極めて重要になってきます。
11.最後にぜひやっておきたい項目として、対象物までの距離を測定することです。Boujouは自前で焦点距離を測定する機能を持っていますが、あらかじめ焦点距離が分かっていれば、その数値を入力することでトラッキング精度を高めることが出来ます。ゴルフなどで使うレーザー式距離計があれば、それを使うことをお勧めします。
12.はレンズのひずみを確認するため、メッシュ状に引いたA3程度の大きさの紙を用意し、レンズのWide端以外つまりZoom端とWide端の途中でフレーミングするときに、この状態で、チャートをあらかじめ収録し、その倍率を保ったまま撮影するものです。なぜこんなことをするのかというと、クロマキーなどの撮影では、マーキングはしてあるものの、背景に水平、垂直を示す表示がなく、Boujouでトラッキングする事前準備で歪みを目視しようとしても目標になる線が存在しないため調整できないという問題があるからです。